屋号について2
2010.03.29|毎年4月の始めに靖国神社で奉納夜桜能が行われる。
能と花見という二つの伝統文化を味わえるだけではなく、
篝火に照らされて輝きながら舞い散る桜吹雪と能舞台の組み合わせがなんとも美しい。
かれこれ5年ほど毎年観に行っているから、
僕にとって「春の義理」のようなものになっている。
3年前のその日も楽しみにしていたのだけれど、あいにくの雨だった。
奉納夜桜能は野外能楽堂で行われるために、
悪天候の場合は日比谷公会堂に場所が変わることになっている。
日中は土砂降りだった雨も、
日比谷公会堂に着く頃には、ぱらぱらとした小雨に変わっていた。
すでにチケットを持った人が大勢集まっていて、
あちらこちらで、傘の花が開いたり閉じたりしていた。
長い列に並び、呼ばれるままに公会堂内に入ると、生温い空気に迎えられた。
雨のせいで、よほど湿気がたまっていたのだと思う。
まとわりつくようなぬるい感触の空気が淀んでいた。
舞台には靖国神社から拝領してきたという「本物」の桜の枝が、
「雨ですいません」ともうしわけなさそうに挿されている。
舞台は舞獅子から始まり、狂言、能と続くのだけれど、
空調による暖気と雨による湿度のせいか、
能が始まるころには頭にぼんやりと霞がかり、
睡魔がゆっくりゆっくりと近づいてきた。
能が中盤にさしかかり、
薄目で舞台の灯りをなんとか認めながら、
そろそろ睡魔に身を任せようかなと思っていた頃、
ふと「あぁ、事務所の屋号は秋山立花にしよう」と思いついた。
なんで、このタイミングでそう思いついたのかは自分でも分からない。
ただ、その思いつきは漠然としたものではなく、決定的で断固たるものだった。
常々自分が思いを巡らせていたことが、
「秋山立花」という屋号にすべて凝縮されているように感じた。
というわけで、
日比谷公会堂で今まさに睡魔に負けようとしていた時に、事務所の屋号は決まった。