(town house MCO 竣工動画)
玄関を出ると中庭で人影が動いた。
「あ、出かけるの? いってらっしゃい」
私の姿をみとめると、明るい声で話しかけてくる。
「うん、いってきまーす」
と鍵をしまったリュックを担ぎ直しながら手をふると、笑顔で手をふりかえしてくれた。
私の住んでいる家は玄関を開けるとすぐに中庭が広がる。
駅前の交通量の多い、大きな道路に面しているけれど、玄関ドアと大きな開口は全部中庭に面しているせいか、車の音はほとんど気にならない。
住み始めた時は、この中庭に帰ってくるたびに、まるでおとぎの国に迷い込んだかのような気持ちになってドキドキしたけれど、いまでは温かい何かにくるまれたような不思議な安心感を感じている。
中庭はここに住むみんなにとってくつろぎの場所だ。
天気のよい休みの日だと、中庭に置かれたテーブルセットに誰かしらが座っている。
ひとりで本を読んでいるときもあるし、何人かでお茶を飲んでいることもある。
「あ。ねー、ねー、今日は何時ころ帰ってくる? あとで飲もうよ」
門に手をかけかけていた私を追いかけるように声が届いた。
私が振り返ると、ほおづえをつきながら、まだ手をふってくれていた。
「いいよー、また彼氏の話?」
「うん、そう! もう誰かに聴いてほしくって!」
「そういっていつも結局のろけで終わるじゃん」
「ちがうの! 本当に今回はもう、酷かったの!」
私はもう一度手をふってから門の扉をあけた。
「わかったー、じゃああとで中庭でね! 5時くらいには帰るから」
「うん、ありがと」
門を閉じて一歩敷地から歩み出すと違う世界と違う空気が私を包み込んだ。
中庭も外の世界もどちらも同じ現実だけれど、私には「中庭がある」と考えるだけで、ちょっとだけ人生を得した気分になれる。